松本さんは現在、東京神谷町・光明寺の僧侶として毎日働き、MBA(Master of Business Administration)を取得した後、「未来の住職塾」を開講。その塾長も勤められている。
「未来の住職塾」とは、マネジメントやデザインの学びの場として、これからお寺をどうしていきたいかを1年かけて教えている住職の為の経営塾である。2012年から始まり、卒業生は600人を超えるという。
松本さんは北海道出身で、元々祖父が住職を務めていた為、幼い頃からお寺に触れて育ったが、直系ではなかったため、そのお寺を継ぐことはなかったという。しかし高校生の頃、地下鉄サリン事件があり、それ以降、社会における宗教の目が厳しくなったことを疑問に感じ、同時に関心も強くなり、東京大学卒業と同時にお坊さんになった。東大卒でお寺に就職する人はほとんどおらず、このことについて松本さんは「誰も行かなそうな道に進んだ方が周りに敵がいないのでのびのびできる」と話す。
現在光明寺内の空きスペースに、カフェで使われていた椅子とテーブルを置き、「お寺カフェ」として誰でも自由に使える空間作りをした。「東京タワー」+「お墓」というの面白い組み合わせを眺めることができ、また都会の中にあるにも関わらず、そこでは騒音が消えゆっくりとした時間を過ごせるという。オープン当初から、「お寺に来て下さい」とただ呼び掛けるのではなく、「お寺カフェはじめました」とイーゼルに看板を掛けて宣伝したところ、お寺に用が無い人も気軽に立ち寄ってくれているという。
また「Temple morning」という活動を行なっており、朝7:30〜8:30にお経を読み、境内を掃除し、カフェで参加者みんなとお話している。「お寺から1日を始めませんか?」というキャッチコピーのもと、月に数回開いているという。特別なことをお寺でするのではなく、日常的に行なっていることをパッケージ化することで、日々の生活のベースメイキングを目的としている。またお掃除は、「神様を綺麗に祀る」という根本的な行いで、どこの宗派のお坊さんも力を込めている共通点である。松本さん自身(浄土真宗西側)も浄土真宗東側や日蓮宗の境内を掃除しに訪れ、友好を築いているという。これまで宗派が異なる者同士は決して仲が良いとは言えず、こうした活動を行うことで宗派間での横の繋がりが生まれればという。
これは宗教間だけの話ではなく我々人間も他者との繋がりを大事にしてゆく時代である。
宗教というのは、昔はただ一つの心の拠り所であった。しかし近年そういった人は減っており、唯一ではない沢山ある拠り所の一つとして、宗教と付き合ってゆくことが仏教原来の「より良い社会作り」につながるのでないかとお話しし、「自立とはたくさんの依存先を持つことである」(東京大学 医師/科学者 熊谷 晋一郎氏)という言葉を紹介しながらレクチャーを締めくくった。