オオニシタクヤ氏(株式会社ENERGY MEET共同代表、慶應義塾大学環境情報学部・准教授)は、”エネルギーデザイン”という分野でエネルギーにおける地球規模での問題に様々な角度から取り組んでいる。
今回のレクチャーでは“エネルギーデザインとは何か”、という話に始まり、現在進行形の地球規模でのエネルギーにまつわる環境問題を指摘しつつ、その問題への提案を実例を通して話して頂きました。
3.11以降急速に人々のエネルギーに対する注目が高まった昨今において、人々がエネルギーをうまく使いこなせる社会が実現するためには、デザインというものがエネルギーと社会や人とを繋げるために更に必要になる、とオオニシさんは言う。
この「エネルギーデザイン」と言う概念は、オオニシさんが過去にタイで活動してきた際にひらめいたものだという。
その活動には、タイのバンコクデザインフェスティバルにおいて、1週間で展示物がゴミになってしまうものを活用し、300個のサーボモーターとソーラーパネルでビルボードを製作。展示が終わり次第それらをリサイクルに回し、使用したソーラーパネルを電気の通わないタイの北部に寄贈するプロジェクトZIIB(Zero Impact Information Billboard)や、もし電気自動車が走る世界になり、駐車場の騒音やガスが出ないようになった場合、駐車場空間とお店や住居が混在可能であり、建物自体の構造が変化するのではないか、といった提案(EV & City)が含まれている。
「モビリティとは何だろうか?」といったケーススタディも学生との間で展開している。
こういった様々な活動を経て“エネルギーデザイン”という新たな分野にたどり着いたオオニシさんは、「エネルギーは、貧困、地域開発、教育、経済、ゴミ、公害、環境など多くの地球規模の課題に密接に関わっており、その世界は、デザイナーが密着できる領域である」と断言する。
では世界で起きてる問題は何が原因であるのだろうか。
それは現在進行形で増加している“人”である。現在約76億人が存在する世界の人口は4、50年ほど経つと100億人に達すると言われている。ここで大きな問題になってくるのが食料問題である。人口が100億に達すると従来生産されていた食料のおよそ2倍の量が必要になるという。原因の一つとしては、今発展途上国の人々が高級品など、色々な食べ物を食べられるようになるところにある。今後食料をどう増やしていくかもまさにエネルギーデザインが大きく関わってくると氏は語る。
地球の表面比率をパーセンテージ化すると、森林が30%、砂漠が33%、農地が32%、そして我々が住んでいる土地が0.5%と言う数値になる。この中でも農地が32%をしめるという事実は、にわかには信じがたいが、事実、グーグルアースでアメリカの中央部を見てみると、川も谷も山も全て関係なくグリット化され、その一つ一つが作物を育てている田畑で埋め尽くされていることがわかる。アフリカも例外ではなく、同様にあらゆる地域がところせましと農地に整備されている。農地が32%というのも細分化すると、23%がウシなど家畜の餌になる牧草地、野菜や果物などはわずか9%しかないのである。
オオニシさんは、農地はグリーン(森林などの自然)ではなく、人々の食料を作る工場である、と強く主張する。農地を広げていくのはある意味、環境破壊に繋がっているのである。
しかしながら我々人類は、日々5万3千㎢もの森林を伐採を繰り返し、砂漠化も進行している。地球の表面比率が悪い方向へと進んでいることに目を向けなければならない。
エネルギーと聞いて思いつくのに電気が挙げられると思うが、その中に大きなエネルギーを生む火力発電がある。この仕組みはヤカンで水を沸かすように、大量の水を沸騰させ、その蒸気でタービンを回すというものだ。しかしこの内部の技術は1925年からほとんど変わっていないことにも問題があるのではないかと氏は考える。
代替エネルギーが求められる昨今だが、ではその新エネルギーはどこにあるのだろうか。地球に降り注ぐ太陽のエネルギー、蒸発する水のエネルギー量は凄まじいものがある。派手さこそないが淀みなく流れている身近にあるエネルギーに気づき得ることができれば、と考える人々が今後増え、エナジー・ハーベスト(環境発電)に真剣に取り組まなければ人類の発電技術の発展には繋がらないと氏は危惧している。
食料問題に対しての一つの打開策として、エントンファームという氏のプロジェクトがある。
2013年に国連が昆虫食の推奨(国連食糧農業機関が世界の食料危機の解決に栄養価の高い昆虫類の活用を推奨)を発表したが、エントンファームではその対象のコオロギを建築目線から立体的に飼育する環境を制作している。
野菜、果物といった植物は、植物工場で大々的に研究が進められている中、畜産の生産率は限界にきている。牛や豚といった生き物を過酷な条件下で効率よく飼育することは、技術的には可能なはずだが、倫理的には許しがたい行為で今後も許されることはないと断言する。
そこで氏は昆虫食であるところのコオロギに着目した。コオロギは飼料効率がよく、全身食べることができ、単一な環境で清潔に育成し出荷できるため、期待を寄せている。自らタイにあるコオロギファームに足を運び、現地での飼育環境から、卵パックのような八面体のモジュールを組み合わせたユニットを作り上げた。実験を繰り返しながら出てきた問題を改善し、より住みやすく、効率のよいユニットの研究を日々続けている。
現在も昆虫食の産業が注目を浴びているが、実態としては売り手側の方ばかり目立ち、育てる側はあまり注目されていないのが現状である。生産、出荷、販売という一つの環境をどのように成立させていくかが今後の重要な課題になってくる。オオニシ農場産のコオロギが世に出回る日もそう遠くない未来かもしれない。
エナジーデザインというある意味、現代で一番身近で、我々が真剣に取り組まなければならない様々な問題を多角度から目を向けているオオニシさんの講義は、時代の流れに敏感で、かつ実に力強く、熱のこもったものであった。
*今回をもちまして、今年度のレクチャーシリーズは終了しました。