塩谷歩波さんは、今まで訪れた銭湯をアイソメトリック図法を使って図解した「銭湯図解」をSNS、自身の本などで発表しているイラストレーターである。また、高円寺にある昭和8年創業の銭湯「小杉湯」で番頭もされており、実際に番台に立ったり、小杉湯に置くグラフィック製作なども行なっている。
塩谷さんはインテリアコーディネーターであった母親の影響から、建築の道に進むことを決め、早稲田大学建築学科に進学。昔から絵を描くことが好きなことを活かして、学生の頃の課題や卒業制作、修士設計は全てイラストで表現していたという。大学院を修了後、設計事務所に勤めたが体を壊し、3ヶ月間休職することに。その時に訪れたのが銭湯だった。
昼間の銭湯の明るさ、お客さんとのたわいもない会話、銭湯特有の空間に惹かれ、それ以来各地の銭湯を訪れたという。ある時、記憶と写真を頼りに銭湯内部のアイソメ図をかいてSNSにアップしたところ、小杉湯の3代目社長の目に止まった。それから、実際に小杉湯を何度も訪れ、3代目と話すうちに「ここで体を直しながら働かないか?」という誘いを受け、番頭をすることを決意、今に至る。
今回のレクチャーでは「建築的思想は他分野に繋がる」というテーマのもと、お話して頂いた。塩谷さんの言う「建築的思想」とは、建築設計においては、リサーチから問題提起、そして解決案へという“抽象的な思考”と、解決案から設計提案とい“具体化”の一連のプロセスを意味する。そのプロセスはTGAという考え方につながり、今の仕事でも役立てているという。TGAとは、Target(誰の為のものか)、Goal(何を感じさせるか)、Action(どんな行動を移させるか)の略で、他のビジネス業界でも使われている思考のプロセスだという。
レクチャーの途中、TGAの練習として、塩谷さん考案のワークショップが行われた。
ワークショップの内容は、TGAを意識しながら、自分の好きなものをイラストと文章で表現するというものであった。例えば、「美術の先生に(T)、また私に会いたいと思ってもらうために(G)、先生が好きそうな絵を描いてプレゼントする(A)」など。ワークショップでは、参加者は4人前後のグループに分かれ、自分の思いを話し合いながら、A3の紙に絵を描いた。そして最後には、希望者数名が皆の前で自分のTGAと絵を発表し、塩谷さんから多くのコメントを頂いた。
塩谷さんの著書「銭湯図解」が2万5千部も売り上げ、テレビをはじめ様々なメディアで取り上げられるようになったのも、初めからTGAが一貫していたからだと塩谷さんは言う。
次回の第4回目(12月6日)は、鈴木智晴さん(株式会社ポーラ デザイン室室長)です。お楽しみに。