『スペースデザインの血脈』では、桑沢デザイン研究所の卒業生へのインタヴューを主に掲載しています。
今回は、同じ桑沢学園が運営する東京造形大学を卒業した藤森泰司先生に、2018年6 月 6 日(木)にインタヴューした内容をご紹介します。藤森先生は、桑沢デザイン研究所で20年以上、非常勤講師を務めて頂きましたが、惜しくも2023年12月にご逝去されました。2016年から2023年までは、卒業制作を教える藤森泰司ゼミのゼミマスターとしてご指導頂き、今回掲載しますインタヴューはその際に行ったものです。追悼の意を込めて、ここに掲載させて頂きます。
(インタヴュアー:大松俊紀(スペースデザイン分野責任者)、2018年6月6日 桑沢デザイン研究所にて)
藤森 泰司/Taiji Fujimori
家具デザインを中心に据え、建築家とのコラボレーション、プロダクト・空間デザインを手がける。近年は図書館などの公共施設への特注家具をはじめ、ハイブランドの製品から、オフィス、小中学校の学童家具まで幅広く手がけ、スケールや領域を超えた家具デザインの新しい在り方を目指して活動している。毎日デザイン賞ノミネート、グッドデザイン特別賞など受賞多数。2019年著書「家具デザイナー 藤森泰司の仕事」(彰国社)を発売。
デザインのきっかけをストックすること
まずは自分の周りをよく観る
大松 藤森ゼミではどのようなことに取り組んでいますか?
藤森 前期では、まず学生たちが自分の日常で気になったものや現象を写真に撮ってもらい、なぜそれに興味を持ったのかを毎週発表してもらっています。なぜかというと、自分がどんな視点をもっているかというのはあまり意識していないことですが、それをよく自分で観察して、その流れでデザインを生み出そうという試みです。次に、自分で撮った写真を、言葉などを使っていくつかのカテゴリーに分類します。その中から、自分が卒業制作で扱うテーマを選び出していきます。後期はそのテーマをもとに、実制作に入っていきます。
大松 その観察のプロセスは、藤森先生が普段の仕事でもスタッフと一緒に行っていることですか?
藤森 そうですね。意識的にしているというより、僕自身もそういった「デザインのきっかけ」になるようなものをストックすることを続けているんです。より理論的にやっている人もいると思いますが、僕の場合は日常のスナップを貯めていくような感じです。まずは自分の周りの世界をよく見る。そのあと、なぜかをよく考える。自分がデザインする、かたちをつくる時に、その方法が決まっているわけでもないですし、自分で見つけていかないといけない。かたちにする過程を自分で考えていかないと、モノができあがらないということを体感してほしいので、こういう授業をしています。
問題解決に近道はない
大松 先生は10 数年前のまだゼミ制でない頃から教えていますが、学生に何か変化を感じますか?
藤森 デザインする上でのエネルギーや異常なしつこさのようなものは、年々少なくなってきているように思います。言われていないのにどんどんやるとかね。もしかしたら桑沢に入る前の教育が影響しているのかもしれないですけど。美術大学とかデザイン学校って、常に自分の頭で考えるのを訓練する場所。それを選んで入ってきたにも関わらず、先生の指示を待っているだけの学生が多い。課題が多かったりすると、それをこなしていくのに精一杯なんですね。いきなり卒業設計で自分のやりたいものを考えようと言うと、どうして良いか分からなくなってしまうことがあります。
大松 そういう学生は多いですね。
藤森 あとは、問題を解決するのに最適な近道があると思っている。実は、そんなものは存在しないんですね。回り道しないと分からないこともあるし、すぐに分かったらみんな簡単にデザインできてますよ。今まで、どうすれば良いんですかって聞いて、それならばこうしなさいと言われてきたんだと思うんです。今後はなるべく自分の手を動かして、頭で考えていかないと。それは桑沢だけじゃないですけどね。
大松 言葉で表現することも大切ですよね。藤森先生は桑沢以外でも、多摩美や東大、東京藝大でも教えられていますが、違いはありますか?
藤森 桑沢では、期限までに反射神経的に課題をやるということに対して、わりと手が動く方なのかもしれないですね。むしろ深く考えてないうちに勢いでつくっていかなければいけない。一方で、何でそれをつくったのか丁寧に誰かに伝えるのは得意じゃない。僕もそうでしたが、良いものをつくればみんな分かってくれるだろうというところがあります。
大松 桑沢では昼間部の学生は1年生の時に基礎造形の訓練をし、エレメントに近いモノの立体造形に取り組むんです。他の大学などでは基礎造形を1 年間徹底してやることはないと思うんですよ。ところで、最近は学校全体で留学生が増えてきています。日本人学生との違いは感じますか?
藤森 このあいだ、クラス全員に自己紹介してもらったんです。最初は彼らのことを知らないので。そうしたら、一番詳しく自己紹介していたのは留学生たちでした。
大松 そうなんですか。
藤森 日本人同士ならなんとなく話していれば大体みんな分かってくれますよね。でも外国からきた子たちは、自分がどこの生まれで、どういう街で育って、ということをしっかりプレゼンしてくれました。モンゴルと台湾から来た2 人で、自分のことをちゃんと理解してほしい、という思いを感じました。それは学ぶべきところがありますね。言葉の壁もある。そういうことが、日本人の学生にも刺激になれば良いですね。
[藤森先生作品]Lono(2013)表情のある形が先にあり、そこに何
を収納するかを考えたくなる、家具の「身振り」がテーマの収納家具。
スペースデザインの領域の広さ
大松 そもそも藤森先生はなぜ家具をやろうと思ったんですか?
藤森 僕は東京造形大学出身ですが、僕の時はⅠ類とⅡ類に分かれていました。Ⅰ類がグラフィック系や映画といった平面系、Ⅱ類が建築と家具、工業デザインなど。僕はⅡ類でした。桑沢と同じように1~ 2 年生の時は基礎造形的な授業がありましたが、当時、授業はほぼ選択で、1 年生から好きな授業を自分で選べました。例えばⅡ類に入っても映画の授業を受けられたりしたんですね。もともと彫刻とか立体物が好きだったので彫刻の授業も受けたりしてたんですが、教授の大橋晃朗先生に出会った時に、家具は彫刻的な側面もあるし、しかもそれが日常の道具でもあるということにすごく惹かれました。それでのめり込んでいきました。
大松 桑沢で教えているのは、いわゆる家具だけではない、空間エレメントですよね。
藤森 そうですね。僕が造形大にいた時も、建築と家具というように分かれていたのは便宜上だけで、大橋先生も椅子のことばかり教えていたわけではありませんでした。どんな空間に身を置いたら良いのかという、より身体に近い領域に焦点を当てて考えるのが大橋先生のゼミでした。もう少し大きく広げると建築になる。つまりインテリアも家具の方に入っていたんですよ。だからそういう意味では今のゼミでも、僕も椅子をつくりなさいと一切言っていません。自分が触れたりする程度のスケール感で、自分たちがどういう場所で生きたいかを考えるという意味では、面白い区分だと思います。
大松 スペースデザインを学んでほしい学生の人物像はありますか?
藤森 そうですね、美術大学も建築インテリア系の学生は減っているようです。スペースデザインや建築が自分たちの日常と繋がっているってことが伝わっていないように思います。特に建築は、自分には絶対無理だと思われているような感じがあります。家具も、はっきりいうと、面倒そうだという(笑)。特に美大の学生は、「絵だけ描きたい!」ような雰囲気が強いですから。
大松 桑沢では1 年生の時に、デザインは全部繋がっているという話をします。
藤森 そうですね。建築そのものでなくても、「建築的な考え方」というのはあると思うんですよ。そういうものが学生に上手く伝わると、もう少しインテリアや家具の、難しいけれど楽しい、みたいなことが伝わってくるんじゃないかな。ですので、いろいろなタイプの学生には来て欲しいと思っています。例えば基礎造形で他の学生より評価されなかったら、自分は立体に向いてないんだと思ってしまう学生もいるかもしれないですが、でもそこに興味があったら迷わず入ってきてほしいですね。いろいろな表現のしかたがあると思います。自分の手を動かしてつくるのが上手じゃないけども、コンピューターが得意だとか、あるいは絵が描けるとか、そういうことでもいいんです。
大松 スペースを出て、スペースの仕事以外に就く卒業生はたくさんいますしね。
藤森 建築に興味があったけど、光のことに興味があったら照明の会社に行ってみようとか、そういうのもいいじゃないですか。スペースデザインって、実はいろんなモノが包括されていて、いろんな切り口がある領域なんです。洋服が好きな学生が来ても良いかもしれない。
一筋縄ではいかない
大松 ゼミを教えるにあたって、何か心掛けていることは?
藤森 うーん。年によって学生のキャラクターやモチベーションも違ったりするので、毎年一筋縄ではないですね。僕なりに学生が何かに取り組むことに対してきっかけを出しているつもりなんですが、学生にあんまり響いてないのかなぁとか思っちゃったり。まあ、いつも悩みます(笑)。
大松 そうなんですか(笑)
藤森 学生の中に1 人飛び出して頑張る子がいたりすると、みんな引っ張られたりしますね。もちろん、逆もあります。年によって学生数も違いますし、その切り替えが難しいです。去年のようにゼミ生が少ない時は一人ひとりに対してかなり長い時間見ることができて、結構詰めていけたんですけど……。
大松 いま藤森先生の事務所のスタッフは桑沢卒がかなり多いですね。
藤森 そういう意図もないんですが(笑)いまスタッフ5人中4人が桑沢卒ですね。ここ2 年くらい新人が長続きしなくて、人が欲しいんですけどなかなか。男女問わず、タフで元気な子いませんか?
大松 心当たり探してみます(笑)今日はありがとうございました。