KDS-SD 桑沢デザイン研究所
スペースデザイン

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桑沢スペースデザインの血脈 03

この特集では、さまざまな分野で活躍する桑沢スペースデザイン卒業生の足跡をたどっていく。その足跡は実に多彩かつ魅力的で、生きる指針として、後輩達へ勇気を与えてくれることであろう。初回の今回は、エレメントデザインなどで活躍する期待の新人デザイナー:西尾健史君に、その生き様ざまを問うてみた。

西尾 健史
Nishio,TAKESHI

1983 年長崎県生まれ。デザイナー。2008 年デザイン専攻科スペースデザインコース卒業後、設計事務所を経て、「DAYS.」として独立。机と作業場を行き来しながらさまざまな空間やプロダクトをデザイン。プライベートプロジェクトも積極的に展開している。

渋谷ならではの課題

西尾:桑沢に入る前に山口大学の建築学科に行っていました。山口大はグラフィックと建築ができる国公立の大学だったんです。建築は楽しかったけど、もともとデザインがやりたかったので、「建築とデザインって違うんだなぁ」って感じたんですね。学部を卒業後その大学院を選ばずに、スペースを基軸に幅広く学べる桑沢を見つけて。バウハウスも好きだったので、その流れもありましたね。

西尾:そうですね。山口で、家の近くに建築家の石上純也さんが設計したレストランがあって、それが好きだったんです。それで、桑沢の夜間で勉強して、昼は石上事務所に行くって最初から決めていました。大学で建築は勉強していたので、どちらかというと石上事務所を頑張って、桑沢は平面構成などの授業を大事にしていました。

西尾:森川嘉一朗先生の東京のオタク文化と都市の話や、大松先生の渋谷をテーマにして都市をリサーチする「渋谷パラサイト」などです。僕は地方から来たので、渋谷にもローカルな部分があるんだなぁと知りました。この立地ならではという課題はすごく面白かったです。

西尾:さっき現在の講師リストを拝見しましたが、当時も今も先生方の陣容がすばらしいですね。自分の時ももっと頑張っていればよかった(笑)

台湾で行われたDIY ワークショップの様子。まちづくりやアートイベントなどを手がける現地の団体に招聘された。

台湾で行われたDIY ワークショップの様子。まちづくりやアートイベントなどを手がける現地の団体に招聘された。

ものの考え方はすべて繋がっている

西尾:はい。谷尻誠さんのように、建築家がインテリアも提案することはまだ少なかったと思います。トラフほど家具を建築の考えでやっている人もいなかった。プロダクトも全く別の分野だと思っていました。けれど今はCG が全然できなくてもプロダクトをつくっています。デザインという、ものの考え方はすべて繋がっている実感が強いですね。

西尾:ボーダレスなアートも手がける設計事務所にいたこともありました。でもそれは玄人向けすぎるというか、一般的な人が良いと思う方向性ではないと気付いた。それでハウスメーカーに行ったんです。

西尾:設計事務所だけれど工務店もバックにいるような会社です。普通の人が良いと思う住宅の価値観を知ろうと思って、3年くらい勤めました。その時に東日本大震災があり──建築の設計者は図面を描くまでが主な仕事なので、それを建てる人がいないと困っている人に何もできないんだなと感じました。その時に、住んでいたところの近くで面白い街づくりをやっているところがあったので、そこに参加しました。アーティストと一緒にストリートファニチャーをDIY したり、ということをやり始めたんです。それが今に繋がっていますね。

西尾:はい、空間でいうとその2 つです。あとはプロダクト、家具もやっています。海外にも行きました。「Interior Life Style Tokyo」という見本市で若手が出品できる部門で賞を取ったんですが、その副賞でドイツの「アンビエンテ」という国際見本市に出展できる権利をもらったんです。それがきっかけで九州のメーカーから家具を出すオファーあって。それがいま、CIBONE などで売られています。その新作をビックサイトで発表したり、プロダクトもデザインしています。

ポップアップショップのデザイン。什器はボール紙でできており、展示後は燃えるゴミとして廃棄することができる。

ポップアップショップのデザイン。什器はボール紙でできており、展示後は燃えるゴミとして廃棄することができる。

残るものをつくりたい

西尾:消費されないものをつくる、ということです。家具はそうですし、インテリアはなくなるかもしれないですけど、その環境や考え方、つくり方はテキストや写真で残っても共感できる、普遍的なものにしたいなと、最近思うようになりました。

西尾:ある程度プロジェクトの数をこなしてくると要領がわかってきて、なんとなく形にできたりするけれど、それでは残らないと思ってます。自分がこだわってやることは人が見てますし、形がなくなっても記憶にちゃんと残る。家具だったらなおさらずっと愛されるものとして現実として残っていく可能性があります。インテリアなどは、3D で立ち上がれば、それっぽいのができるじゃないですか。でも、それは味気ないんですよね。やはり手でつくる感じというか、人が考えた痕跡が残っているほど、愛されるものになるという実感があります。大松 それは私もすごく思いますね。桑沢生にとってもいいアドバイスになりそうです。

西尾:在学中でも、本当に真面目にやって、それを共感できる仲間が見つかれば、その人は将来ずっと付き合える人になると思うんですね。そして、いつか独立するタイミングでそういう人と一緒に仕事をする機会も出てくる。

西尾:上のレベルだけ見ておきたいですよね。最近も吉岡徳仁さんがオリンピックのトーチをデザインしたことを紹介するテレビ番組を見ました。会社勤めの人生だったら無理だと思うんですが、自立して頑張ればそういった華やかなこともで きる。個人で仕事をしていくということは収入の不安もありますが、もっと夢を見た方がいい。最近はSNS のおかげで、 日本ではあまり知られていないのに、海外では画像が出回っているようなこともあり得ます。そういう意味でも、しっかりやれば仕事のチャンスはいくらでもあると思うんですね。あとは自分のキャラ次第。

自分らしいデザインとは何か?

西尾:しますよ! 例えば、パーティなどの場をきちんと営業と考えて出ている方もいるじゃないですか。僕はちょっと大人数が苦手なほうなので、今まで手がけた仕事のつながりで仕事ができていけるようになると良いなと思っています。性格次第で仕事の取り方が全然違う。

「takeshi」。テーブルの脚としての用途以外でも、 本立てやワゴンになったりする、多目的なスチール製の家具。ドイツの展示会がきっかけで出会った福岡・大川市の家具メーカーから製品化された。

「takeshi」。テーブルの脚としての用途以外でも、 本立てやワゴンになったりする、多目的なスチール製の家具。ドイツの展示会がきっかけで出会った福岡・大川市の家具メーカーから製品化された。

西尾:あとは、ずっと好きなこと続けたいですね。反動も怖いので、一気に売れるようなものは自分からなるべくつくりたくないなぁと。まあ、でも本当にどんなスタンスでやっても、それなりに仕事はできるんだなぁと思ってます。あと、学生さんへのアドバイスとしては、独立したかったら早い方がいい。

西尾:経験は積み上がっていくものだからです。どう独立したいかにもよりますけど。自分にしかできないことをしたいなら早い方がいいと思う。キャラというか、自分の色を出せるまで時間は掛かるんです。また、できれば大きい会社でも1回働いた方がいい。

西尾:最近、オフィス家具をデザインしたんですね。オフィスでの働き方もひと昔と大きく変わっています。そこで提案したのが、居心地のいいオフィスです。家にいる時間よりオフィスにいる時間の方が長いので、だったらそれを快適にできる、リラックスできるものにしませんかというものでした。今までの機能主義的な、事務的なものではなく、家とそれとの中間領域のようなものを目指しました。そういった「暮らしながら働くオフィス」のような提案ができるのは、大きなオフィスで働いた経験があったからこそだと思うんです。100 人くらいの人が働いている空間はどういう場所なのか、分かっていないと提案も浅くなる。いま「働き方をデザインする」というのはすごくホットな話題です。一度大規模な会社で働いてみると、暮らしに対しても住宅に対してもいろいろな提案がその経験から生まれると思うし、そういう意味でお薦めします。

(5 月30 日(土)桑沢デザイン研究所にて)

(上)「Tokyo Art Book Fair」空間構成。リサイクルをテーマにダンボールを使って会場構成した。 (下)大川家具と他の伝統産業がコラボするイベントの会場風景。プロデュースやアートディレクション、会場デザインなど、総合的に関わった。