レクチャーシリーズ第3回目のゲストは、渋谷研究家の田村圭介氏(昭和女子大学准教授)でした。
田村氏は1997年から渋谷駅の研究をはじめた。渋谷駅の変遷を追い、複雑化した渋谷駅の動線を視覚化するための大きな模型を制作、各所で展示している。
レクチャーでは、渋谷駅の歴史を、様々なスケールで表現してきた模型写真と共に詳しく解説してくれた。
最近では、新宿駅をはじめ、他の駅の調査、そして模型製作も進行している。
渋谷駅は狭い土地に多数の路線を引いたために、地下から地上まで立体的に交差した空間になっている。また、駅ビルのファサードは時代ごとに増改築を繰り返された集合体であり、時間の蓄積が見られる。このような特殊な場であるが、現在は人々がスマートフォンや構内のサインを頼りに無意識のうちに通り過ぎていたり、渋谷の単なる背景のようなものとなり、駅ビルの建築デザイン自体を気にする人は少ない。様々な意味で、渋谷駅は「見えない建築」化が進んでいると言える。
駅は「み」と「からだ」の営みでできているという。「み」は内側で流動する人、「からだ」は外側の殻を指す。建築を内側の人間の動きに合わせる皮膜のようなものとして捉えるという新たな設計論を紡いでいける可能性がある。
海・空・船を主役として設計された横浜港大桟橋国際客船ターミナルのプロジェクトチームへの参加をきっかけに、それまでのシンボル的な建築とは違う、「見えない建築」というテーマに興味を持った。
学生時代は、ゴシック建築などに見られる完成された美よりも、未完成ながらも変化していくものの方が面白いと考えていた。影響を受けたアーティストにはAndy Goldsworthy、Antony gormley、畠山直哉などを挙げ、特に人間をテーマにした彫刻家のAntony gormleyの作品から集合の中の個人というものを意識するようになった。
これらの興味が現在の渋谷駅への興味に繋がったのではないかと自身を振り返る田村氏。学生の時に感じた感性を大切にして、素直にやりたいことを発信してほしいと語った。
*次回12月9日(土)の講演者は、木下壽子氏(住宅遺産トラスト代表)です。会場は6階アトリエ教室になります。