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レクチャーシリーズ 第2回(2020.11.21)
井上奈奈さん(画家、絵本作家)
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井上奈奈さんは画家であり絵本作家である。京都府の舞鶴市生まれ、現在は東京に在住。16歳の時にアメリカへ留学し美術を学び、その後、武蔵野美術大学を卒業した。国内外の個展やアートフェアにて作品発表をし、近年では絵本作品の制作を中心に活動している。2017年には著作の絵本「ウラオモテヤマネコ」、「くままでのおさらい」の2作品が舞台化。2018年には「くままでのおさらい」の特装版が、ドイツで開催された「世界で最も美しい本コンクール」で銀賞を受賞した。
今回のレクチャーの前半では、絵本作品の紹介や朗読が行われ、後半は学生からの質問コーナーが設けられた。
絵本を描くきっかけになったのは2007年に描いた一枚の絵。最初に描いた絵本は2014年に出版したもので、それまでは平面作品やインスタレーション作品を発表していた。展示していた一枚の絵が、環境保護の運動をしている人の目に留まり、NPOの活動に参加しないかと誘われる。その人物は、作家やアーティストを交えて視覚的にもNPOの活動を広めていきたいという理念を持っていた人であった。井上さんはこの頃、人間の内面を描くような作品が多く、外側に向けて活動をしていきたいと考えていたため、良い機会だと思い受けることにしたという。
2014年NPOの活動において、「トラを保護しましょう」「象を保護しましょう」など、声高に言うのではなく、ビジュアル的に訴えるものが作りたいという相談をされた。井上さんは絵本で伝えるがいいのではと考え、物語を描いて提案すると、その場で作ろうという話になったそうだ。本の仕組みもその時にデザインし、この「さいごのぞう」という絵本が売れることによって、売り上げの2パーセントがNPOの活動資金になるようにした。絵本の主役である象という動物は実は絶滅危惧種であり、10年後にはいなくなってしまうかもしれない。この絵本の中では時間軸を未来に設定し、象がいなくなってしまったシチュエーションから物語が始まる。
独特な世界観の話を描く井上さんだが、「別の動物に成り代わって世界を見る」という子供の頃からの癖がストーリーに影響を与えているという。普段は見えないが、例えば蟻と同じ視線まで下がれば、ものすごくたくさんの虫が見え、世界が違って感じられる。また、京都の舞鶴で生まれた井上さんは、生まれた時からどこかへ移動したい願望があり、その気持ちも反映されているという。
過去には専門学校で建築を学んでいたという井上さんは、絵本と建築の共通点を挙げてくれた。一つ目が、作品が出来てからがスタートだということ。絵本は誰かの手に渡り、そこからストーリーが繋がっていくというのが建築と似ており、建築も完成してからその家の物語が始まるとも言える。二つ目は素材について。どんな紙を使うか、どんなフォントを使うかなど、建築の壁材や色を決める時と感覚的には同じだという。そして、最後は作る過程でたくさんの人が関わるという点も建築と共通している。出版社の担当編集者、デザイナー、印刷業者など、関わる人は多い。絵本も建築も独りでは作れないのだと語った。
最後に「建築的思考というのは生きていく上で役立つ。どこにでも当てはめられる思考。どんな職業に将来就こうとも、建築的思考は無駄にはならない。自分だけの物語を書いていくのではなく、他者に興味を持って生きて欲しい。」と学生へメッセージを贈ってくれた。