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レクチャーシリーズ 第5回(2020.12.19)
松川昌平(建築家)
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松川昌平さんは、1998年に東京理科大の工学部建築学科を卒業。翌年には000studio共同設立。2009〜2011年までハーバード大学デザイン大学院に在籍し、客員研究員+文化庁派遣芸術家の在外研修員となる。そして2014年から現在まで慶応義義塾大学環境情報学部の准教授をしている。建築の計算可能性と不可能性を探求しており、コンピュータを使った設計「アルゴリズミック・デザイン」を提唱している。
今回のレクチャーは、大きく分けて三部構成になっており、一つ目はアルゴリズミック・デザインの実験編、二つ目は理論編、三つ目は実践編。基本的には松川さんが個人で試行錯誤してきた遍歴を時系列に沿ってお話して頂いた。
1999年に事務所を設立したことが松川さんのキャリアに大きな影響を与えていると語る。Googleが1998年に創業し、Windows95が発売したのが1995年。その頃学生だった松川さんは、コンピューターを使い始めて、社会的に普及したファーストジェネレーションを感じたそうだ。
東京理科大学などで非常勤講師をし、その頃に学生にプログラミングを教え、実践する。そしてアルゴリズミック・デザインについて自分でも勉強したいと思い、ハーバード大学で研究し直したのだという。
2001年のテイスティング・ワインバーの設計プロジェクトでは、ワインが酸化しないように器具を開発することで、少ない量をテイスティングできるようになった。さらに、400種類以上のワインを検索できるシステムを作成。家にいながら検索システムを使って、自分の好みにチューニングしたワインが検索ができるようになった。そしてワインのテイスティングカードも製作したという。テイスティングしたワインの濃さ、香りの強さ、甘さなどをそれぞれ5段階に分け、CMYKの色に割り当てて、カードの色を作る。例えば、果実感が強いワインが好きだと思えば、遠目からカードを見て、マゼンダに近いカードを見つける。そうすることによって、簡単に自分の好みのワインが見つかる仕組みだ。このプロジェクトでは、三つの環境を同時に設計するということした先駆的なものとなった。
2009年の木造のバンガローを設計するというコンペでは、45ミリ角の杉の間伐材をランダムに組み合わせることで、奥行き方向にレイヤーを重ね、空間を成立させるという提案をした。約2万本の杉の間伐材を使用。2万本もあるため、設計者が木材を一本一本設計していくというのは途方もない。そこでプログラミングを独学し、木材一個一個に簡単な知能を教え込んだ。同一のレイヤー内では他の木材とぶつかってはいけないとか、下の木材と接合するときにはある角度を保たなければならないとか、下のレイヤーと木材と繋がるときに、少なくとも二つ以上は他の木材と接合しなければならない等。このバンガローの設計を雑誌に発表したときに、これをぜひ海の家でやってみないかという誘いをもらい、同じ仕組みを使って設計した。学生と一緒に製作したが、学生は部分的な木材の接合ルールは分かっているが、それ以外は知らないため、結果的に出来たものを見て初めて全体が分かるという独特な方法をとった。
(その他、数々のプロジェクトを元に、「アルゴリズミック・デザイン」を解説して頂いたが、詳細はここでは割愛する)
コンピューターと一緒に共同しながら、人間・機械の複合形でやっていかなければならない時代が長く続くと松川さんは言う。自分の味方になってくれるコンピューターに、使う前からアレルギーを持ってしまうと、パートナーとしてコンピューターと一緒に仕事できなくなってしまう。そのため、「まずはチャレンジしてみてほしい」と学生へ想いを伝え、レクチャーを締めくくった。