12月7日(土)に行われたレクチャーシリーズ第3回のゲストは、建築家の冨永祥子さんでした。冨永さんは福島加津也+冨永祥子/FT Architects(http://ftarchitects.jp/)で建築家として活躍する一方で、漫画家としても活躍しております。今回は建築設計のお話よりは、さまざまな研究活動、とくに漫画による空間体験の記述・記録の手法を中心にお話しして頂きました。

建築と体験を漫画で表現する試み
冨永さんの研究の原点は、中国で行った実測調査に遡ります。現地で感じた空間の迫力や関わる人々との交流が、報告書ではどうしても伝わらないことに気づき、漫画を用いて体験そのものを表現する手法を模索したそうです。その斬新なアプローチにより、読者は単なる図面や写真を見るのではなく、建築物を取り巻く空気感や時代背景をも体感できるようになるとのことでした。
冨永さんが現在出版予定で制作中のアドルフ・ロースの建築本では、ロースの建築作品や人物像に迫るだけでなく、その時代の背景や彼が考えていたことを包括的に描写。特に、建築見学が難しいロースの住宅建築を漫画化することで、読者に空間がもつ記憶を共有することを可能にしています。

異なる表現方法を学ぶ
漫画表現にも独特の手法が用いられています。冨永さんは日本の漫画スタイルに限らず、フランスやベルギーのBandes Dessinées(バンド・デシネ)からもインスピレーションを得ているそうです。
また、巨匠ドガやフェルメールの構図、ルスタルやギュベールといった漫画家たちの技法を研究し、空間体験を視覚的に再現する技術を学ばれているとのことでした。この多様な表現を建築に応用することで、より深い空間体験の共有が可能になるのでとのことでした。卒制の発表を控える学生達にとって今後作品の見せ方やプレゼンのあり方に関して再考する貴重な機会となりました。
オリジナルのためのレファレンス
冨永さんの講義の中で印象的だったのは、「オリジナリティの根底には、徹底したレファレンスがある」ということです。建築や絵画の巨匠たちを模写し、学び続けることで独自の表現が生まれる。この姿勢は、グラフィックのみならず、どんなデザインの場でも重要だと感じます。冨永さんの試みは、建築デザイン、研究の新しい可能性を示しているように思います。建築の空間体験を漫画で表現するという斬新な発想は、時代や文化を超えて人々を繋ぐ力を持っているように思います。

