KDS-SD 桑沢デザイン研究所
スペースデザイン

Lecture Seriesレクチャーシリーズ

レクチャーシリーズ第4回は鈴木智晴さん(ポーラデザイン研究室室長)をお招きしました

株式会社ポーラはポーラオルビスホールディングスの中でも「美裕層」と呼ばれている美意識、感性の高い人に向けたハイプレステージ(最高価格帯)の商品を取り扱っている化粧品会社。化粧品以外にも洋服、アクセサリー、寝具、タオルなど人が美しくなる為の商材を展開しているという。

ポーラは今年で90周年を迎える。創業当時は「たった一人(手が荒れてしまった妻)の為のクリーム」として始まったというが、2016年よりブランドを再構築し、Science(科学的探究心と挑戦で革新を生む)、Art(卓越した美と技で驚きと感動を生む)、Love(一人ひとりの人間を尊重し、愛溢れる関係を築く)の三つをキーワードに打ち立てた。メインビジュアルとロゴも同時に一新し、ブランドの独自な価値を築き上げている。

鈴木さん自身は大学でグラフィックを専攻し、卒業後はお菓子のパッケージ会社に就職。その後パッケージデザインと言えば、やはり化粧品だと思い、化粧品会社を何社か経験し、今に至っている。それまでの化粧品会社では量販的なデザインを作ることが多かったというが、ポーラはある一定の層(美裕層)だけに向けたデザインを考えるため、アウトプットの違いに驚いたという。

レクチャー当日はポーラの看板商品であるB.Aなど何点か持参して頂き、参加者は実際に手に取ることができた。レクチャーでは、商品の実例をいくつか挙げながら、それらのデザインプロセスを丁寧に教えて頂くことができた。

例えば、日本で初めてシワを改善する美容液であるWRINKLE SHOTはポーラの一番人気とも言える商品であるが、「ディスカバリー」という言葉が商品コンセプトに掲げられている。パッケージをデザインするにあたっては、「前人未到の星を発見する旅」をテーマにし、宇宙、星、宇宙飛行士と発想していき、最終的に宇宙飛行士が搭乗する前に着る制服のオレンジ色に着目。その色をチャレンジング・オレンジと名付け起用したらしい。また商品が単色だとコンセプトがディスカバリーであるのに、どこか既視感を感じてしまうので、オレンジと紺色を組み合わせることで、チャレンジ精神のある色合いとし、長く親しんでもらいたいという思いを込めた。

このように商品を作る際、ストーリー作りをとても重要視しており、デザイン研究室では、ディスカッションにほとんどの時間を費やすという。また、経営者を始め、様々な部署の人間とディスカッションを重ねることも重要で、例えば、経営的視点から新しいデザインの刺激を受けることも多々あるという。これは大企業だから出来る強みの一つと言えるだろう。

ポーラでは内容物が出来てから、パッケージデザインのコンセプトを決め実際に販売されるまでには更に2年は掛かるという。その為、デザインを長い時間軸で考える必要があり、流行に流されないデザインが必要とされる。

流行に流されないデザインとは、ある意味、普遍的で、かつ革新的であることが大切だと鈴木さんは言う。

ポーラにおけるパッケージデザインのプロセスは、非常に哲学的な部分があり、それは建築デザインのプロセスとも共通することが多く見受けられた。他分野のデザインとはいえ、学生にとっては非常にいい勉強になったことであろう。