KDS-SD 桑沢デザイン研究所
スペースデザインコース

Spotlight注目の授業

レクチャーシリーズのゲストは田中元子氏(グランドレベル代表取締役)でした

田中元子氏(グランドレベル代表取締役)は、都市(まち)におけるパブリックスペースの可能性を追求するために、幅広く活動されている。

例えば、都内のど真ん中の工事前の空き地を利用し、キャンプ地を出現させる「アーバンキャンプ・トーキョー」や、自らの手でまちの人々を招き入れて、その場を違う空間へと変化させてしまう「パーソナル屋台」など多彩な活動を行っており、それらをまとめた著書『マイパブリックとグランドレベル−今日からはじめるまちづくり-』(2017)も出版されています。

現在は、東京・隅田川の東、両国と森下駅の中頃に「喫茶ランドリー」という事務所兼ランドリーカフェをオープンし、人々が集う場を運営しています。

 

今回のレクチャーでは、「建築における“まちづくり”とはどういうものか」という話から始まり、我々が暮らす都市空間の問題を明確に指摘し、その問題への提案を実例を通して話して頂きました。

田中氏は、“1階づくりはまちづくり”と明言する。1階とは人の目線の高さであり、人が空間として認識している場でもある。アイレベル、グランドレベルと表されるが、この地面でやるべきものが”まちづくり“であり、その地域の幸せの鍵を握っているのだと断言する。

海外と比べると日本はアイレベルでの空間作りが乏しいと指摘する。その中でもマンションのエントランスホールはそこの住人であっても利用しないボイド(空の空間)が出来てしまっており、人々はビルの中(上階)に閉じこもってしまっている。そういった誰も行きたがらない1階の空間ばかり生み出していると、数十年後には人が集うことのない“死のまち”へ変化してしまうと危惧している。

では人が行きたいと思う、潤い続ける“生きたまち”へと変化させるにはどうすれば良いのか? 例としてデンマークのオーフス市の川沿いのパブリックスペースを挙げ、同じ人口密度の日本の茨城県のある街と比較して話をしてくれた。1970年代までのオーフス市は、自動車交通の影響で、オーフス川を徐々に暗渠化していき、街中に人々が集う空間がなかったが、昨今その(綺麗とは言えない)川であっても復活させ、川沿いに人が賑わう街が復活しているという。

こうした変化を見た田中氏は、「人の賑わうコミュニティとは設計できるもの」であると考えるようになった。そしてそこには、「補助線のデザイン」が必要不可欠であると指摘する。「アーバンキャンプ・トーキョー」では、東京の街中の空き地にテントを張るだけで、人々は能動的にその周りの地域に出向き、特別なイベントを提供しなくても各々で楽しむ姿を見た。「パーソナル屋台」では、コーヒーなどを無料で振る舞う自家製パブリック屋台を携え街に出ると、普段は誰もいない通りに次から次へと人が集まり、あたかもイベントが始まったかのような空間に変化していった。ここで言う補助線とは、「人が能動的になる」ためのキッカケの創出・提供である。

ビルの一階部分に建てられた喫茶ランドリーでは、オープンしてから間も無く、近隣の主婦から事務所の空きテーブルのスペースを貸して欲しいと要望があり、そこでパン作り教室が始まった。そしてそれを皮切りに、半年で100以上ものイベントが催されるに至った。

喫茶ランドリーは現在、街の人々が集い、自由に使ってもらえる居心地の良いスペースとなっており、「能動性の器(うつわ)」と呼べる空間をデザインしたと言える。

こうした活動を経て田中氏は、幸せは目指せなくても健康は目指せるのではないか?と思うようになったという。世界保健機関憲章(WHO)には、「健康とは、完全な肉体的、精神的および社会的福祉の状態であり、・・・」(条約第一条)と記されており、「肉体」「精神」「社会福祉」の三つの要素から健康が成り立っていることがわかる。中でも人や社会とのつながりとった「社会福祉」の要素が喫茶ランドリーを始め、様々な活動に垣間見ることができる。

田中氏は、常に新しいまちづくりに取り組む一方で、氏が行う活動を知り参加してくれる人が、自らまちづくりをしたいと思うことを期待し、またそういった人を支援していきたい、と最後に締めくくった。

田中氏のレクチャーは、本当にパワフルで、聞く人を一瞬で虜にするような熱気のあるレクチャーであった。

 

*次回のレクチャーシリーズは、12月15日(土)18時から、建築家の遠藤勝勧さんです。